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企業分析:ANA 21年3月期 決算より ~黒字化への道のり~

こんにちは。おすぎです。

今回は先日20年度実績が発表されたANAを取り上げます。

ANAの企業分析は20年度の上期決算のタイミングで1度行っていますが、今回の決算発表では来年度の損益見通しも発表されましたので、改めて見てみたいと思います。

なお、前回の記事も興味ありましたらぜひご覧ください。

では今回もよろしくお願いします!

1. ANAの事業領域

ANAホールディングスは以下4つの事業領域に分けて業績報告をしています。

・航空事業

・航空関連事業

・旅行事業

・商社事業

各事業の事業詳細は前回分析で触れていますのでそちらをご覧ください。

なお、20年3月期(昨年度)の年間実績売上構成比率は以下の通り、総売上1.97兆円のうち航空事業が9割近くの1.73兆円を占めていることから、やはりANAの主力事業は航空事業であることがわかります。

これまで売上の大半を占めていた航空事業が、今回コロナの影響を強く受けました。前年度からの航空事業の売上・利益変化、また来年度の損益見通しを次章以降でみていきましょう。

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2. 21年3月期実績と22年3月期見通しについて

まずは先日発表された21年3月期(20年度)通期実績です。

出典:ANA 21年3月期 決算説明資料より

年間の売上高は前年度比▲1兆2,455億円減の7,286億円、営業利益は前年度比▲5,255億円減の▲4,647億円の赤字となっています。なお、第二四半期決算で発表された計画値と比較すると売上は113億円悪化も営業利益は402億円改善となっています。

前年度比の悪化は特に航空事業の影響が大きく、売上は▲1兆1,337億円減(連結売上減のうち91%)、営業利益は▲4,974億円減(連結営業利益減のうち95%)となっています。

言わずもがな、コロナの影響で旅客需要が大幅に減ったことが売上・利益の大幅悪化に繋がっており、前年度比年間の旅客数はANA国内線で▲70%減、Peach国内線で▲54%減、ANA国際線に至っては▲95%減と発表されています。

旅客数減に対して手をこまねいているだけでなく、下図の通り固定費の圧縮や事業モデル見直しなど対策を打ったようですが、1兆円超の売上減の影響は大きく過去最大の赤字となってしまいました。

出典:ANA 21年3月期 決算説明資料より

続いて同タイミングで発表された22年3月期(21年度)の通期見通しをみていきましょう。

出典:ANA 21年3月期 決算説明資料より

20年度実績比で売上高6,513億円増の1兆3,800億円、営業利益は4,927億円増の280億円と発表され、当期純利益のベースでも黒字化を達成する見通しと発表されました。

ある程度の利益改善見通しとは想像していましたが、黒字化の発表は個人的には驚きでした。航空事業のみですが、20年度実績から21年度見通しの変化点分析がありましたので見てみましょう。

出典:ANA 21年3月期 決算説明資料より

航空事業は需要の回復に伴う売上増5,999億円に対して、発着数増等に伴う費用増を▲1,353億円(内訳:収入連動▲80億円、燃油費/燃料税▲888億円、運航連動▲385億円)計上、つまりラフ計算ですが限界利益は4,646億円増(限界利益率77%)を見込んでいます。そこに人件費や減価償却費の減など180億円の改善が入り合計で前年度比4,823億円改善の345億円見通しとなっています。

前回の分析でも触れましたが、航空事業は固定費事業であり、かつ限界利益がとても高いビジネスであることが改めて分かります。したがって、主要事業である航空事業の利益回復は、いかに旅客数を獲得できるかにかかっていると言えますね。

なお、21年度の旅客数の見通しは下図の通り見込んでいるようです。

出典:ANA 21年3月期 決算説明資料より

19年度実績比で、国内旅客数は21年度末には同レベルまで回復するも海外旅客数は半分までの回復と予想しているようです。しかし、近々で緊急事態宣言が延長したことを考えると予測を下回る可能性は大いにあると考えられるので、22年度の決算数値は引き続き注目してみていく必要がありそうですね。

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3. 財務状況について

続いて財務状況について見てみましょう。下図は過去5年間のグループ連結貸借照表推移をグラフ化したものです。

特徴的なのはやはり20年3月期から21年3月期への変化です。20年度にて借入を合計で8,000億円ほど実施しており、それに伴う非流動負債の増加、流動資産の増加がみられています。

コロナ影響による資金ショートを防ぐため、多額の借り入れを行いましたが、その結果キャッシュフローはどうなったのか見てみましょう。下図に過去5年間のキャッシュフロー変化を載せています。

20年3月期までは黒字利益を背景に営業CF(オレンジ色の棒グラフ)はプラス方向でしたが、21年3月期は赤字転落影響もありマイナス方向へ動いています。

投資キャッシュフロー(グレーの棒グラフ)は設備投資等の費用を背景に毎年3,000億円前後のマイナス方向となっています。なお、21年3月期は設備投資の縮小を行いましたが、定期預金の預入や有価証券の購入等が多く、約6,000億円の投資CFマイナスとなっています。

※定期預金に預けると固定性預金として扱われ、通常の現預金とは区分して扱われるため投資キャッシュフロー上マイナスとして計上される

21年3月期は4,000億円の赤字を補填するように、借入を行うことで資金ショートを回避しました。その結果、21年3月期の財務CF(黄色の棒グラフ)を見ると1兆円以上の大幅にプラスとなっています。20年3月期末時点での残高は1,400億円でしたので、借入を行わなければ残高がマイナスとなる危機的状況であったことがキャッシュフロー計算書からも分かります。

個人的に気になった点は、18年3月期~20年3月期まで、各年度のキャッシュ変化(青の折れ線グラフ)がマイナスであったことです。有価証券の購入等による投資CFマイナス影響もありますが、総資産における現金同等物残高の少なさはやはり気になる点と言えます。

まずはしっかり黒字に戻し、今回の借入を返済することが必要ですが、コロナで改めてキャッシュの重要性が再認識されましたので、今後キャッシュの持ち方に変化が生まれるのかも注視していきたいと思います。

ちなみに、キャッシュと言えば気になる配当についてですが、決算短信内で下記の通り記載されていました。

将来の不確実性に対応できる手元流動性を確保しつつ、財務基盤を強化することが当面の課題でありますことから、誠に遺憾ながら次期につきましても配当は見送らせていただく予定です。

ANA 2020年3月期 決算短信

どうやら22年3月期も無配となる可能性が高そうですね。。

もともと高配当としても期待されていた銘柄でもありますので、少しでも早く財務基盤を立て直し、配当を再開してほしいですね。

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4. 今後のビジネス展開について

ANAはコロナの影響を強く受けた企業の1つであり、航空機の削減や、従業員の出向など、多くのニュースが注目を集めました。さらに最近のニュースでも従業員のボーナスカット等、徹底的なコスト削減をすすめようとしていることが見て取れます。

今回の発表の中でもコスト削減計画が報告されていました。

出典:ANA 21年3月期 決算説明資料より

そして、利益の黒字化を目指したコスト削減の先に、ビジネスモデルの変革を実施することで中長期的な成長を目指す、とも説明されています。

出典:ANA 21年3月期 決算説明資料より

新ビジネスや新サービスの展開を目指すという話しは第二四半期時点の決算説明でもありましたが、具体的な内容はまだ発表がなされていません。まずはコスト圧縮を実現し黒字の確保が優先事項と思いますが、どのような戦略を打って出るのか注目したいと思います。

とは言え、事業の柱は航空事業であることに今後も変わりないと思います。そのためには旅客数の回復が絶対条件ですが、コロナの影響はまだまだ不透明で、22年3月期に黒字化達成できない可能性も充分あると思います。最悪ケース、海外渡航が制限されたり、海外旅行需要そのものが下がっていく可能性もあります。そうなれば現在の固定費圧縮では足りなくなる可能性もあります。

まだコロナの収束やコロナ後の世界がどうなるのか分かりませんが、今後のANAの業績を見通すうえでは重要な要因となりますので、引き続き今後の世界のあり方にも注目していきましょう。

※当ブログでは具体的な銘柄について言及しておりますが、株式等の売買の推奨等を目的としたものではありません。投資は自己責任でお願い致します。

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