こんにちは。おすぎです。
今回はバリューコマースを取り上げました。
ブロガーの皆さんにはアフィリエイトサービスプロバイダとしておなじみのバリューコマースですが、損益状況まで見られたことのある方は少ないのではないでしょうか??
収益を運んでくれるサービスを提供する企業の決算、気になるところと思います。
また、ブログを書かない方は「アフィリエイトって何??」となる方もいらっしゃると思います。
アフィリエイトについての説明も入れながら進めますので、みなさん、ぜひご覧ください!
1. バリューコマースの事業概要
まずはバリューコマースの事業概要を確認しましょう。
バリューコマースの事業概要
バリューコマースはインターネット広告サービスを展開し、大きく以下2つの事業セグメントを持っています。
なお、第2章以降で触れる決算説明資料も以下の区分となっています。
・マーケティングソリューションズ事業
・ECソリューションズ事業
マーケティングソリューションズ事業の主要サービスが「アフィリエイト」となります。アフィリエイトとはなんぞや??については次の段落にて説明します。
一方でECソリューションズ事業は、ECサイトに出店する事業者に対して販売促進を軸とするソリューションを提供する事業となっています。
主要なサービスは、オンラインモールのストア向けCRMツール「STORE's R∞」やクリック課金型広告「ストアマッチ」、そのほかにもECサイト運営支援の「B-Space」や連結子会社であり宿泊施設向け情報システム開発・提供を行うダイナテック株式会社の事業もこちらに含まれます。
以下に2021年12月期のマーケティングソリューションズ事業とECソリューションズ事業の売上比率を示します。
売上比率はほぼ半々となっています。
「バリューコマースと言えばアフィリエイト」と思っていたのですが、ECサイト出店者向けサービスとの2本柱で会社を運営していることが分かります。
アフィリエイトの仕組み
ここでアフィリエイトの仕組みについて説明します。
決算説明の理解を深めるためには事業イメージを持ってもらうほうが良いと思います。
ただし、ざっくりとした説明になりますので、より詳細に知りたい方や、実際に自分もアフィリエイトをやってみたい!と思った方はぜひ「アフィリエイト 仕組み」等で検索してみて下さい。
アフィリエイトの仕組みは下図の通りです。
商品を売りたいと考えたお店(広告主)は、仲介業者であるアフィリエイトサービスプロバイダ(ASP)に広告費を支払い、ブロガー(アフィリエイター)との仲介をしてもらいます。
アフィリエイターはASPに登録し、紹介したい商品の広告を自分のコンテンツ(ブログ等)で紹介、さらに商品の広告リンクを貼り付けておきます。
アフィリエイターのコンテンツ経由でお客さん(購入者)が商品を購入してくださった際にASPからアフィリエイターに成果報酬が支払われる、という仕組みになります。
この絵の中でバリューコマースはASPという立場で関わっています。
青の実線でお金の流れを示していますが、バリューコマースは広告主から仲介手数料を貰い、成果に従ってアフィリエイターに報酬を支払う、というビジネスを行っています。
つまり、なるべく多くの広告主を獲得できればその分、売上や利益に繋がることになります。
バリューコマースの事業概要とアフィリエイトの仕組みが分かったところで、さっそく2021年12月期の決算をみていきましょう。
2. 21年12月期実績と22年12月期見通しについて
まずは21年12月期実績を見てみましょう。
21年12月期の売上は前年20年12月期比+44億円増の336億円、営業利益は+17億円増の79億円となり、売上・利益ともに過去最高を達成、さらに第四四半期単独でも過去最高となりました。
営業利益が前年比プラスである一方で、税金等調整前利益の項目を見ると前年比▲12.9%減と逆方向に動いています。
これは子会社のダイナテック株式会社に掛かる資産減損の影響です。
減損の背景は「新型コロナウイルス感染症流行の長期化により、同社のWeb事業の将来見込みを見直した」と説明されていました。
ダイナテック社は宿泊施設向けに情報システムの開発・提供を行っていますが、コロナにより旅行業界全体が落ち込んだことが今回の減損に繋がっているようですね。
カテゴリ別の売上・利益変化をまとめた1枚もありましたので見てみましょう。
マーケティングソリューションズ事業に属するアフィリエイトサービスは、20年12月期はコロナ影響を受け、旅行や就職、金融の一部分野の広告出稿が減少し減収となっていました。
しかし、経済全体の復調、さらに昨今の投資ブームにあやかった金融分野の伸びにより21年12月期は前年比で増収・増益となりました。
ただし、コロナ前の19年12月期に記録した売上170億円レベルにはまだ回復していません。
続いてECソリューションズ事業ですが、こちらはコロナによりネット販売が激増した影響で昨年度から売上・利益ともに増加、今年度も引き続き増収・増益となりました。
コロナ影響で明暗が分かれた2事業でしたが、今年度の全社決算としては最高益達成と、満足いく結果だったのではないでしょうか。
続いて22年12月期の年間見通しをみてみましょう。
先々の見通しが困難である、との注釈付きではありましたが、22年12月期通年の売上見通しは21年12月実績比+34億円増の370億円、営業利益は+8億円増の87億円と増収・増益で、最高益更新見通しとなっています。
21年12月期からの変化要因を主要ビジネスに絞ったステップチャートがありましたので以下に載せます。
「アフィリエイト」サービスは改善見通しですが、コロナ以前相当までの回復は2023年以降と予想しており、その意味では今後更なる上積みも考えられます。
またECソリューションズ事業を代表する「ストアマッチ」と「STORE's R∞」も増益予想となっており、eコマース市場は引き続き好調を維持すると考えているようですね。
街に人が戻り、実店舗での買い物も回復していくと考えられますが、一度変化した生活様式はすぐには戻らないとも思いますので、オンラインストアモール向けサービスの増益見通しも妥当と考えられます。
3. 財務状況について
続いて、バリューコマースの財務状況を見ていきましょう。まずは下図に過去5年間の貸借対照表データを並べます。
バリューコマースは過去5年、コロナの影響もありつつも、下図の通り順調に売上・利益を伸ばしてきました。
この増収・増益を背景に貸借対照表も順調に大きくなっていきました。
黒字を背景に純資産を積み上げ、21年12月期には純資産比率69%を超えました。
なお18年12月期から19年12月期にかけての総資産増は、黒字影響だけではなくダイナテック株式会社を買収した影響もプラスされています。
このタイミングでは特に非流動資産が増えています。
「のれん」が約11億円増、ソフトウェア仮勘定(翌年度にソフトウェアへ振替)が約9億円増と、非流動資産の変化のほとんどを占めています。
そして、この「のれん」とソフトウェアの固定資産を21年12月期にて減損、非流動資産額も逆戻り、というストーリーとなっています。
なお、減損に関して過去に記事を書いていますので、ぜひ併せてご覧ください。
もう1つ、バリューコマースの貸借対照表の特徴は非流動負債がほとんどないことです。
21年12月期決算短信にて流動負債の内訳をみても「買掛金」「未払金」「未払法人税等」がほとんどを占めており、借入がありません。
キャッシュフローを説明する際も触れますが、ダイナテックを買収するタイミングですら借入を行っておらず、継続的に無借金経営を行っていることが分かります。
漸進する売上と利益、そして安定した財務基盤を背景に2010年以降毎年配当を出しており、2022年12月期の配当方針も下図の通り増配予想となっていました。
なお、バリューコマースは自社のHPで下記の通り配当方針を出しています。
2011年度(平成23年12月期)以降は、株主の皆様に対する利益還元重視の姿勢をより明確にするため、目標とする連結配当性向を30%以上としております。
バリューコマースHP 配当方針より
配当性向30%が維持され続けると仮定すると、利益が伸びるにつれて配当も増えますので、引き続き成長を期待したいですね。
続いて過去5年間のキャッシュフロー変化です。
こちらも安定した黒字決算を背景に、営業CF(橙色の棒グラフ)は毎年プラス方向となっています。
投資CF(灰色の棒グラフ)と財務CF(黄色の棒グラフ)も比較的安定しています。
ただし19年12月期の投資CFは他の年度と比べて大幅マイナスとなっていますが、これはダイナテックの買収影響となります。
一方で19年12月期の財務CFをみると、こちらは他の年度と比べて大きくは変わりません。つまりダイナテック買収に際して、借入を行っていないことが分かります。
では財務CFのマイナスは何者か?と言うと、そのほとんどが配当の支払いとなります。
配当方針にて「配当性向30%を目安とする」とありましたが、利益の増加とともに配当支払い額が増えていることが分かり、しっかり配当方針に沿って運営されていることが分かります。
各CFの変化の合計となるキャッシュ変化(青色の折れ線グラフ)をみると、借入無しでダイナテックを買収した19年12月期はさすがにマイナスとなっていますが、それ以外の年度は全て大幅プラス、21年12月期末時点残高は150億円を超えるレベルに到達しています。
財務的にとても安定していることが良く分かりますが、今後はこの資金をいつ・何に使うのか、注目が集まりますね。
4. 今後のビジネス展開について
最後にバリューコマースの将来について考えてみましょう。
バリューコマースは今回の決算説明で、2022年12月期~2025年12月期の向こう3年間の中期経営計画について触れていました。
今回は上記をベースに考えてみます。
まずは中期経営計画の全体像をまとめた1枚がありましたのでそちらを見てみましょう。
具体的な経営数値目標として「2025年12期までに EBITDA 150億円」を掲げています。
2021年12月期はEBITDA 87億円でしたので、3年間で約2倍を目標としているようです。
※ここでは EBITDA=営業利益+減価償却費+のれん償却費 と定義
EBITDA倍増を達成するために、マーケティングソリューションズ事業とECソリューションズ事業の既存2事業の成長、さらに新たな収益源の開拓を目指しているようです。
まずは既存事業について見てみましょう。
いずれも既存ビジネスの拡大を目指しているようです。
まずはマーケティングソリューションズ事業ですが、こちらは「国内外の新たな市場開拓」「独自メディアコンテンツの差別化」を戦略として挙げています。
その結果、売上を拡大し、年平均10%の営業利益成長を目指すようです。
その目標達成に対する課題として挙げられているのが「シェア拡大」「事業領域拡大」「トラッキング規制の対応」です。
前者の2つは戦略通りに売上拡大を実現できるか、という内容となりますが、トラッキング規制は少し毛色が異なります。
そもそもトラッキングとは何なのでしょうか?
詳細は「トラッキング」等で調べていただければと思いますが、トラッキングとは、直訳すると「追跡」となります。
簡単に言うとWeb上での顧客の閲覧や購入などを追跡・分析し、適切なサービスや広告の提案に繋げることを言います。
物議をかもしたことでも有名ですが、AppleのCMで、コーヒーを購入した男性がその後、店員から追跡を受け、トラッキング解除のボタンを押した瞬間居なくなる、というものが印象的でしたね。
このトラッキング情報の活用ですが、プライバシーの観点から、各国政府・企業含めて多くの議論がなされています。
マーケティング用途とは言え、個人情報はどこまで活用してよいのか?データを悪用される可能性はないのか?セキュリティ面は安全なのか?
グローバル化に伴い、情報が簡単に国をまたぐ時代となったことで、いつルールが変わり、Webビジネス事業者の利益に多大な影響を及ぼさないとも限りません。
こちらは先を見通すことが難しいリスクですが、潜在的に潜むリスクであることは理解しておく必要があると思います。
次にECソリューションズ事業ですが、こちらは特に「ヤフー以外への展開」を戦略に掲げています。
バリューコマースは2012年にヤフー株式会社(現Zホールディングス株式会社)が筆頭株主となり、連結子会社化しています。
その影響もあってか、利益のうちヤフー関連の占める割合が大きくなっています。
それを将来的には利益の半分程度を独自のドメインで稼ぎ出すと目標を打ち出しています。
シナジー効果を高めるためのヤフーによる買収でしたので、ヤフー向け売上比率が高まったのは仕方ないことと思います。
しかし、更なる成長を実現するためにはチャネルを増やすこと、ヤフー1本ではリスクが高いこと等を背景に上記戦略に踏み切ったのだと想像されます。
ただし、その戦略を実現するための具体的な戦略は説明されていませんでしたので、ここは引き続きリリース情報に注視していきましょう。
最後に新規ビジネスについてですが、こちらも「成長投資」と名付けてまとめた1枚がありました。
既存のビジネス領域にとらわれず、非線形の成長を実現するために4年間で100億円の投資を考えているようです。
こちらも具体的な戦略は記載されていませんでしたので、追加情報の発表に期待するしかなさそうですね。
1つ注目したいのが、この100億円の投資を自己資金でまかなうと記載があったことです。
財務分析の章で触れましたが、21年12月期末時点でバリューコマースは150億円を超える手元キャッシュがあります。
これらの資金を活用して、またも借入無しで大規模投資を行うようですね。
時代の流れにのって順調に事業を拡大してきたバリューコマースですが、時代の転換点に伴ったリスクも同時に存在することが分かりました。
さらに競合企業も新たな戦略を打ち出してくることが予想されますので、バリューコマースが次にどんなサービスを展開していくのかが、更なる成長のカギとなりそうです。
とは言え、バリューコマースはZホールディングスとの資本関係という強みがありますので、ぜひそのメリットを活かしていって欲しいですね。
戦略的にまだまだ見えない部分が多いですので、続報を期待して待ちましょう。
※当ブログでは具体的な銘柄について言及しておりますが、株式等の売買の推奨等を目的としたものではありません。投資は自己責任でお願い致します。